3000社への飛び込み営業で得た教訓が 顧客に愛され売上アップにつながるマネジメントに
- 2019/02/03
- 19:02

なりわいのかたち
<教育・コンサルティング>
知識や技能を、必要とする方に分かり易いかたちで教え、
その人たちの仕事や生活に役立ててもらう。
それが教育やコンサルティングと言えます。
また、その人本来の良さや、ちからを引き出すのも教育です。
仕事の内容は、決して一方的に「教える」ことにとどまりません。
教えた相手からも、報酬以外で必ず何らかのフィードバックがあり、
互いに学び合い成 長し合えるものです。
教育やコンサルティングは提供する側とされる側だけのものではなく人、
人と人の関係、システム、コミュニティそのもののさらなる発展につながる仕事だと言えます。
関連サイト http://nariwaijob.com

斉田由美(マーケティングコンサルタント)
イチからはじめるマーケティング
https://start-marketing.com/
【なりわいのすじみち】
短大卒業後、大手通信機器メーカーに一般職として就職。それがすぐに配属部署が担っていた半導体機器の需要が急激に伸び、一転、事務職だった斉田さんも営業に回された。その後、社内結婚した夫と別べつの道を歩むことを選択したのを機に、学生時代にアルバイトを経験したホテル業界へ転職。ほどなくサブマネジャーに昇格し、配属先のホテルの稼働率をコンスタントにあげるようになった。実績を認められて売り上げ不振の店舗のマネージャーとしての異動を命じられると、今度は新規顧客開拓のため、飛び込み訪問営業に飛び回った。そこで大きな壁にぶつかる。
【モットー】
経営者と、その会社で働くすべての従業員と家族を幸せに
短大卒業後、大手通信機器メーカーに一般職として就職。それがすぐに配属部署が担っていた半導体機器の需要が急激に伸び、一転、事務職だった斉田さんも営業に回された。その後、社内結婚した夫と別べつの道を歩むことを選択したのを機に、学生時代にアルバイトを経験したホテル業界へ転職。ほどなくサブマネジャーに昇格し、配属先のホテルの稼働率をコンスタントにあげるようになった。実績を認められて売り上げ不振の店舗のマネージャーとしての異動を命じられると、今度は新規顧客開拓のため、飛び込み訪問営業に飛び回った。そこで大きな壁にぶつかる。
【モットー】
経営者と、その会社で働くすべての従業員と家族を幸せに
優良企業に就職し「普通のOL」としてしっかり仕事をして土日は休み、毎月、安定収入を得る。90年代に社会に出た多くの女性たち同様、斉田さんがなんとなく抱いていた社会人像はほどなく時代の空気で翻された。現在手がけるコンサルティングには、新入社員として入社した会社での働き方、その後転職した職場で経験した仕事上の壁、試行錯誤、失敗経験すべてが生かされている。 |
●一般職のOLが営業の最前線に
短大卒業後に一般職として通信機器メーカーに就職。配属されたのは当時右肩上がりで需要が伸びていた半導体機器販売を担う部署だった。当初はバックヤードで営業職を支える仕事をしていたが、人手が足らなくなり営業にかりだされた。
PCもインターネットも、いまほど普及しておらず、斉田さん自身は「文系」で半導体っていったい何?というレベル。半導体に関連する知識としては、電池にはプラスマイナスがある、という程度だった。
営業職としてお客様のもとを訪れ、相談を受けても専門知識がないばかりに、いったん相談内容を持ち帰るしかない。必死に勉強はしたものの、専門知識を踏まえた提案型の営業まではできず、歯がゆい思いを味わった。
社内結婚した夫も営業職だった。斉田さん同様「文系」だが、勉強して電子回路について専門知識を備え「できる」営業マンとして活躍。海外出張にも頻繁に出かけるようになった。
そんな夫を頼もしく、ビジネスマンとして尊敬もしていたものの、やがてすれ違いが多くなり別々の道を進む決断をした。
斉田さんはそこで、働くステージも心機一転しようとホテル業界へと転職。学生時代にフロントのアルバイトをして接客の楽しさを経験していたというのも選んだ理由のひとつだ。29歳のときのことだった。
●「斉田マネージャー」として
転職先は、都内で拡大中のビジネスホテル。就職して3ヶ月で店舗異動となりサブマネジャーとなった。ここで斉田さんは、まず人材マネジメントについてとことん学びきることになる。

24時間営業のビジネスホテルでは、シフト制をとり一つの時間帯を少人数で担当し、引き継いで回していく。スタッフの多くは女性だ。
サブマネジャーの斉田さんの仕事は夜間スタッフのマネジメントだった。とはいえ業務はリレー形式で流れていくもので昼夜の明確な区切りはない。サブマネージャーといっても実質はスタッフ全体の管理が仕事だ。
たまたま、おおざっぱな昼間のスタッフから几帳面な夜の時間帯担当者へ引き継がれると、仕事の不備が目につき、昼間担当への不満となる。同じ時間に顔を合わせて行うミーティングなどないなか、別の時間帯へのスタッフへの不信感がつのった。信頼関係の構築など程遠い状態になりがちだった。
そこで斉田さんはどんなスタッフでも同じレベルのサービスを提供できるよう、マニュアルを整備した。
細かい人、大雑把な人、どんなタイプのスタッフでもわかりやすい内容とした。それが奏功して業務はスムーズに回りはじめ、稼働率は徐々にアップ。毎年、コンスタントに実績をあげるようになった。
●3,000軒回ってゼロ!?
業績が上がっても、功労賞やお褒めの言葉がとくにあるわけでもなく、上長の評価は「まあいいんじゃない」程度。そんなものかなあ、と思いつつ、せっせと日々の業務をこなしていった。

そうしたある日斉田さんは、売り上げ不振のホテルへの異動を命じられる。
当時、ビジネスホテルは全般的に稼働率が高く、空室に事欠くような状況だった。それなのに異動を命じられたホテルはビジネス街にありながら顧客確保に苦戦していた。
コンスタントに稼働率を確保してきた実績が買われ、斉田さんに白羽の矢が立ったのだ。
斉田さんはまず、ホテルのパンフレットと名刺を携えかっぱしから飛び込み営業した。オフィスビルの各フロアを回り受付や、総務担当者に資料を渡して「出張のとき連絡をいただければお部屋を割引でご用意できます」とアピールしていく。
まずは100件回ることを目標に立てた。「行ってきます!」と張り切って出かけようとすると、スタッフたちが「がんばってください」とエールを送ってくれた。
だが、100社まわってもさっぱり反応がない。100じゃ足らないんだ。それなら300社を目指して回ろう。
さらに、新規顧客開拓に勤しんだ。ホテル内のバックヤード業務と新規顧客営業でフル回転の日々だったが、せっかく自分に任せてくれた仕事。なんとか成果につなげたいと、ビジネス街を歩き回った。
それでも反応はない。まだ足らないのか。それなら1,000社を目標にしよう。
だが結果は同じだった。結果のでない斉田さんを見て、スタッフのテンションも下がり気味になっていった。営業に出かけようとする斉田さんに「また行くんですかあ」と呆れ顔を隠さないようになった。
もうこうなったら意地だ。とにかく訪問先を増やすしかない!
だが、そんな思い虚しく3,000社回ってもまったく反応がなかった。
そこで初めて気づいた。「戦略に問題があるんだ」。
「1,000社のときに早く気づけよって感じですよね」
今なら笑っていえるがその時まではとにかく、訪問先を増やすことだけに必死だったのだ。
●また来たくなるホテルに
そこでいったん外回りの営業はやめ、ホテル内のサービスを見直すことにした。
ビジネスホテルは予約を受ける時点からチェックインまでが勝負だ。
とった戦略はリピーターへの対応を充実させること。
例えば、○号室を利用したお客様はタオルを3本以上用意する必要がある、△号室の方は、枕は真新しい状態よりも、少し使い込んだ方がお好み…といった情報は清掃担当者が詳しい。館内の掃除をする別会社のチーフとの連携体制を強化した。
さらに、リピーターには、言われる前に好み通りのアイテムや仕様を用意した。最近禁煙を始めたと聞けば、次は、予約を受けた時点で禁煙ルームを確保した。
また、電話で予約を受けた際には、名前を聞いただけで利用履歴がわかるよう顧客データ管理の仕組みを整備し、フロントで活用するよう徹底した。
これらの「小さなことを少しずつ」の積み重ねでリピーター率は徐々に上がった。リピーターからの口コミで広まっていきホテル全体の稼働率も右肩上がりで上がっていった。
●24時間365日
この経験から斉田さんは、課題がある事業では、まずどこに問題があるかを探り、それを解決するにはどんな方法があるかを思考し、現場と連携しながら実践していく、という流れが奏功することに気づいた。がむしゃらに飛び込み営業を行うのではなく、現状の業務フローや個々の質に目を向ける。「根本」を見直し、一つひとつ改善することが、リピーター増につながる。
実績につながってきたものの、一方で業務は多忙を極めるようになった。
マネジャーともなると、早番、遅番などの決まったシフトに組み込まれることがない代わりに24時間、365日の対応が求められる。
夜中でも早朝でも構わず、慌てた声のスタッフから「マネージャー出せって言ってます!」と電話がかかってくることもある。気が休まる暇はない。
そうした激務を続け5年たったとき、辞める決心をした。34歳になっていた。
「今度は、土日はしっかり休めて夜中に電話がかかってくることのない『普通の仕事』をしよう」。
そう考え転職活動を始め、たまたまいちばん最初に採用がきまったのがネット通販の会社だった。ある企業のなかで新しく立ち上げる部門という位置付けで、ポジションは「社長秘書」だという。
コミュニケーション力、柔軟性、スケジュール管理など、これまでホテル業界で得た経験値も活かせそうだった。
ただ、フタを開けてみると、実際に任されたのは、その会社が新たに手がけるネット通販の会社の立ち上げから運営をほぼ一人で担うという業務。
ネット通販は一般的とは言えない時代だった。斉田さん自身もネットショッピングは一度もしたことがないなか、いきなりサービスを提供する側になったのだ。
マニュアル本片手に、初心者向けのホームページ作成用ソフトを使ってウエブサイトの作り方を覚え、売れるキャッチコピーについて勉強…という段階からのスタートだった。
●「俺のやり方がいちばん」
サイト立ち上げにあたっては、斉田さんら社員や外部業者によるネット通販チームと社長が、それぞれ別々に、特定の商品のパイロット版のECサイトを立ち上げた。ユーザーの反応を見て売り上げのよいサイトを本番サイトとして公開するのだ。
パイロット版を公開すると、サイト訪問者が多く商品がよく売れるのはチームが手がけたサイトのほうだった。通常なら、売り上げのよい方一本に絞り、さらに改善を加えて本番サイトとして完成させて、売り上げ増を狙う。だが会社の方針は異なった。
「こっちをもう少し改善しよう」
社長が命じたのは、売れない方のサイトに修正を加えることだった。もともとのコンセプトがそぐわなかったこともあり、小手先の修正を加えるだけで劇的な変化は見られないのは傍目に明らかだった。
それに、何度も修正を行ううちに、チームが作ったサイトに似てきてしまう。
一つの商品を同じ会社が、別々の窓口で販売するという奇妙な状態になってしまった。それでも社長は、自身が手がけたサイトに固執し続けた。さらには、売り上げが不振だと斉田さんたちチームのせいにした。
よくある「ワンマン社長」。会社の方針にそぐわなければ、方針そのものを見直すよりも、それに合わない社員がリストラされる。
社員一人ひとりのモチベーションも会社業績も、独裁的なトップ次第という環境では、働く人が幸せとはいえない。

「もう、この会社にはいられないな」
斉田さんは会社を辞める決意をした。
今度の「辞める」は、独立することだった。失敗も含めた自分の経験を生かし、社長と働く人が幸せになれるような企業運営をお手伝いする仕事をしようと考えたのだ。
●社長の働く時間を減らして売り上げをアップ!
そうして2016年、斉田さんはマーケティングコンサルタントとして起業した。
コンサルティングの大きなミッションとして「社長の働く時間を減らして売り上げを向上」を掲げた。
自分自身(会社)の良さは案外自分が一番わかっていないものだ。まずは対話によって斉田さんという他者の視点で掘り起こし、取り組むべきことの優先順位を明確にしていくことがファーストステップとなる。
ウエブサイトの見せ方、「売り」「強み」を明確化したうえでの広告打ち出し、人材マネジメント、業務と組織の運営、広告、ターゲット絞り込み、魅力・強みの可視化などを、クライアントごとに優先順位をつけて行なっていく。
その後、必要に応じてツールの作成を支援したり、活用方法を、実践を通してアドバイスする。
ただ、クライアントにとり斉田さんがなくてはならない存在であることはもちろんだが、自律的・継続的に上向きの事業運営を行えるようになることがいちばんだ。
お休みは年間で2、3日あるかないかという会社なら、海外旅行に2週間行けるようにする、毎日家族との時間をもてるようにする。そうした経営者や従業員の小さな幸せを一つずつ増やすための取り組みを行なっていく。
こんな事例がある。
サラリーマン生活をやめてセラピーサロンとして独立開業したものの、予約は1日一件入るか入らないか。貯金を崩して、不安を抱えながらの毎日を送っていた経営者が、なんとか立て直したいと斉田さんに相談した。
そこでコンサルティングにより他のサロンとの違いを明確にし、ウリを強調したチラシをまいたところ、劇的に予約電話の鳴る回数が増加。リピーターも増え、今ではそのサロンは、顧客にとってなくてはならない存在になっているという。
これまで斉田さん自身が、体当たり営業で壁にぶつかった経験、組織の方針とのギャップや違和感といった実体験が今の仕事に生かされている。
そんな斉田さんが、これから事業をスタートしようとする人や事業をさらに発展させたい人に、ひとつだけアドバイスするとすれば、「人と会ってビジネスのチャンスをたくさん見つけること」だという。
ウエブサイトやチラシ作りは次の段階でもいい。色々な人と話して初めて、今、市場で何が求められているのかが見えてくる。その人(会社)ならではの魅力が、その人のことばと、人となりを通して伝わる。
一方、自身も経営、会計、労務管理など組織運営に必要な分野について勉強して経験値を上げる必要性も感じているという。
プロのコンサルティングを受け、課題と向き合いながら日々ブラッシュアップに努める。ある程度の数字を達成したら、法人化も視野に入れる。
「より良いコンサルティングができるよう、私も、さらに成長していきます」
これからもっと社長や社員が幸せになるお手伝いをしていきたい。
好奇心いっぱいに、謙虚に、常に学ぶ姿勢を怠らず、コンサルタントである自分に何ができるかを常に思考し、実践していく。
●なりわいを作る/シフトチェンジする人へ
新たなステージを模索中の方へのアドバイスを伺った。
「自分の得意と苦手、好きなことを明確にしてみることが大切です。
一つでも得意なことがあれば、それを伸ばしていけます。
例えば、ネット投資がもうかるからといって誰もができるわけではありません。
常に気を張りパソコンの前に1日中座る負担より、勝ったときの楽しさのほうが勝る人が成功するんです。
意にそぐわない職場に配属されたとしても、得意なことに磨きをかけ続けていれば、スキルは充実し、飛び出すチャンスが巡ってきたときに飛び出せます」
斉田さんのこれまでの仕事経験やさまざまな職業人との出会いから得た実感であり、すべての経営者、新たなチャレンジをする人たちへのエールだ。

イチからはじめるマーケティング
https://start-marketing.com/
斉田さんのお仕事4カ条
短大卒業後に一般職として通信機器メーカーに就職。配属されたのは当時右肩上がりで需要が伸びていた半導体機器販売を担う部署だった。当初はバックヤードで営業職を支える仕事をしていたが、人手が足らなくなり営業にかりだされた。
PCもインターネットも、いまほど普及しておらず、斉田さん自身は「文系」で半導体っていったい何?というレベル。半導体に関連する知識としては、電池にはプラスマイナスがある、という程度だった。
営業職としてお客様のもとを訪れ、相談を受けても専門知識がないばかりに、いったん相談内容を持ち帰るしかない。必死に勉強はしたものの、専門知識を踏まえた提案型の営業まではできず、歯がゆい思いを味わった。
社内結婚した夫も営業職だった。斉田さん同様「文系」だが、勉強して電子回路について専門知識を備え「できる」営業マンとして活躍。海外出張にも頻繁に出かけるようになった。
そんな夫を頼もしく、ビジネスマンとして尊敬もしていたものの、やがてすれ違いが多くなり別々の道を進む決断をした。
斉田さんはそこで、働くステージも心機一転しようとホテル業界へと転職。学生時代にフロントのアルバイトをして接客の楽しさを経験していたというのも選んだ理由のひとつだ。29歳のときのことだった。
●「斉田マネージャー」として
転職先は、都内で拡大中のビジネスホテル。就職して3ヶ月で店舗異動となりサブマネジャーとなった。ここで斉田さんは、まず人材マネジメントについてとことん学びきることになる。

24時間営業のビジネスホテルでは、シフト制をとり一つの時間帯を少人数で担当し、引き継いで回していく。スタッフの多くは女性だ。
サブマネジャーの斉田さんの仕事は夜間スタッフのマネジメントだった。とはいえ業務はリレー形式で流れていくもので昼夜の明確な区切りはない。サブマネージャーといっても実質はスタッフ全体の管理が仕事だ。
たまたま、おおざっぱな昼間のスタッフから几帳面な夜の時間帯担当者へ引き継がれると、仕事の不備が目につき、昼間担当への不満となる。同じ時間に顔を合わせて行うミーティングなどないなか、別の時間帯へのスタッフへの不信感がつのった。信頼関係の構築など程遠い状態になりがちだった。
そこで斉田さんはどんなスタッフでも同じレベルのサービスを提供できるよう、マニュアルを整備した。
細かい人、大雑把な人、どんなタイプのスタッフでもわかりやすい内容とした。それが奏功して業務はスムーズに回りはじめ、稼働率は徐々にアップ。毎年、コンスタントに実績をあげるようになった。
●3,000軒回ってゼロ!?
業績が上がっても、功労賞やお褒めの言葉がとくにあるわけでもなく、上長の評価は「まあいいんじゃない」程度。そんなものかなあ、と思いつつ、せっせと日々の業務をこなしていった。

そうしたある日斉田さんは、売り上げ不振のホテルへの異動を命じられる。
当時、ビジネスホテルは全般的に稼働率が高く、空室に事欠くような状況だった。それなのに異動を命じられたホテルはビジネス街にありながら顧客確保に苦戦していた。
コンスタントに稼働率を確保してきた実績が買われ、斉田さんに白羽の矢が立ったのだ。
斉田さんはまず、ホテルのパンフレットと名刺を携えかっぱしから飛び込み営業した。オフィスビルの各フロアを回り受付や、総務担当者に資料を渡して「出張のとき連絡をいただければお部屋を割引でご用意できます」とアピールしていく。
まずは100件回ることを目標に立てた。「行ってきます!」と張り切って出かけようとすると、スタッフたちが「がんばってください」とエールを送ってくれた。
だが、100社まわってもさっぱり反応がない。100じゃ足らないんだ。それなら300社を目指して回ろう。
さらに、新規顧客開拓に勤しんだ。ホテル内のバックヤード業務と新規顧客営業でフル回転の日々だったが、せっかく自分に任せてくれた仕事。なんとか成果につなげたいと、ビジネス街を歩き回った。
それでも反応はない。まだ足らないのか。それなら1,000社を目標にしよう。
だが結果は同じだった。結果のでない斉田さんを見て、スタッフのテンションも下がり気味になっていった。営業に出かけようとする斉田さんに「また行くんですかあ」と呆れ顔を隠さないようになった。
もうこうなったら意地だ。とにかく訪問先を増やすしかない!
だが、そんな思い虚しく3,000社回ってもまったく反応がなかった。
そこで初めて気づいた。「戦略に問題があるんだ」。
「1,000社のときに早く気づけよって感じですよね」
今なら笑っていえるがその時まではとにかく、訪問先を増やすことだけに必死だったのだ。
●また来たくなるホテルに
そこでいったん外回りの営業はやめ、ホテル内のサービスを見直すことにした。
ビジネスホテルは予約を受ける時点からチェックインまでが勝負だ。
とった戦略はリピーターへの対応を充実させること。
例えば、○号室を利用したお客様はタオルを3本以上用意する必要がある、△号室の方は、枕は真新しい状態よりも、少し使い込んだ方がお好み…といった情報は清掃担当者が詳しい。館内の掃除をする別会社のチーフとの連携体制を強化した。
さらに、リピーターには、言われる前に好み通りのアイテムや仕様を用意した。最近禁煙を始めたと聞けば、次は、予約を受けた時点で禁煙ルームを確保した。
また、電話で予約を受けた際には、名前を聞いただけで利用履歴がわかるよう顧客データ管理の仕組みを整備し、フロントで活用するよう徹底した。
これらの「小さなことを少しずつ」の積み重ねでリピーター率は徐々に上がった。リピーターからの口コミで広まっていきホテル全体の稼働率も右肩上がりで上がっていった。
●24時間365日
この経験から斉田さんは、課題がある事業では、まずどこに問題があるかを探り、それを解決するにはどんな方法があるかを思考し、現場と連携しながら実践していく、という流れが奏功することに気づいた。がむしゃらに飛び込み営業を行うのではなく、現状の業務フローや個々の質に目を向ける。「根本」を見直し、一つひとつ改善することが、リピーター増につながる。
実績につながってきたものの、一方で業務は多忙を極めるようになった。
マネジャーともなると、早番、遅番などの決まったシフトに組み込まれることがない代わりに24時間、365日の対応が求められる。
夜中でも早朝でも構わず、慌てた声のスタッフから「マネージャー出せって言ってます!」と電話がかかってくることもある。気が休まる暇はない。
そうした激務を続け5年たったとき、辞める決心をした。34歳になっていた。
「今度は、土日はしっかり休めて夜中に電話がかかってくることのない『普通の仕事』をしよう」。
そう考え転職活動を始め、たまたまいちばん最初に採用がきまったのがネット通販の会社だった。ある企業のなかで新しく立ち上げる部門という位置付けで、ポジションは「社長秘書」だという。
コミュニケーション力、柔軟性、スケジュール管理など、これまでホテル業界で得た経験値も活かせそうだった。
ただ、フタを開けてみると、実際に任されたのは、その会社が新たに手がけるネット通販の会社の立ち上げから運営をほぼ一人で担うという業務。
ネット通販は一般的とは言えない時代だった。斉田さん自身もネットショッピングは一度もしたことがないなか、いきなりサービスを提供する側になったのだ。
マニュアル本片手に、初心者向けのホームページ作成用ソフトを使ってウエブサイトの作り方を覚え、売れるキャッチコピーについて勉強…という段階からのスタートだった。
●「俺のやり方がいちばん」
サイト立ち上げにあたっては、斉田さんら社員や外部業者によるネット通販チームと社長が、それぞれ別々に、特定の商品のパイロット版のECサイトを立ち上げた。ユーザーの反応を見て売り上げのよいサイトを本番サイトとして公開するのだ。
パイロット版を公開すると、サイト訪問者が多く商品がよく売れるのはチームが手がけたサイトのほうだった。通常なら、売り上げのよい方一本に絞り、さらに改善を加えて本番サイトとして完成させて、売り上げ増を狙う。だが会社の方針は異なった。
「こっちをもう少し改善しよう」
社長が命じたのは、売れない方のサイトに修正を加えることだった。もともとのコンセプトがそぐわなかったこともあり、小手先の修正を加えるだけで劇的な変化は見られないのは傍目に明らかだった。
それに、何度も修正を行ううちに、チームが作ったサイトに似てきてしまう。
一つの商品を同じ会社が、別々の窓口で販売するという奇妙な状態になってしまった。それでも社長は、自身が手がけたサイトに固執し続けた。さらには、売り上げが不振だと斉田さんたちチームのせいにした。
よくある「ワンマン社長」。会社の方針にそぐわなければ、方針そのものを見直すよりも、それに合わない社員がリストラされる。
社員一人ひとりのモチベーションも会社業績も、独裁的なトップ次第という環境では、働く人が幸せとはいえない。

「もう、この会社にはいられないな」
斉田さんは会社を辞める決意をした。
今度の「辞める」は、独立することだった。失敗も含めた自分の経験を生かし、社長と働く人が幸せになれるような企業運営をお手伝いする仕事をしようと考えたのだ。
●社長の働く時間を減らして売り上げをアップ!
そうして2016年、斉田さんはマーケティングコンサルタントとして起業した。
コンサルティングの大きなミッションとして「社長の働く時間を減らして売り上げを向上」を掲げた。
自分自身(会社)の良さは案外自分が一番わかっていないものだ。まずは対話によって斉田さんという他者の視点で掘り起こし、取り組むべきことの優先順位を明確にしていくことがファーストステップとなる。
ウエブサイトの見せ方、「売り」「強み」を明確化したうえでの広告打ち出し、人材マネジメント、業務と組織の運営、広告、ターゲット絞り込み、魅力・強みの可視化などを、クライアントごとに優先順位をつけて行なっていく。
その後、必要に応じてツールの作成を支援したり、活用方法を、実践を通してアドバイスする。
ただ、クライアントにとり斉田さんがなくてはならない存在であることはもちろんだが、自律的・継続的に上向きの事業運営を行えるようになることがいちばんだ。
お休みは年間で2、3日あるかないかという会社なら、海外旅行に2週間行けるようにする、毎日家族との時間をもてるようにする。そうした経営者や従業員の小さな幸せを一つずつ増やすための取り組みを行なっていく。
こんな事例がある。
サラリーマン生活をやめてセラピーサロンとして独立開業したものの、予約は1日一件入るか入らないか。貯金を崩して、不安を抱えながらの毎日を送っていた経営者が、なんとか立て直したいと斉田さんに相談した。
そこでコンサルティングにより他のサロンとの違いを明確にし、ウリを強調したチラシをまいたところ、劇的に予約電話の鳴る回数が増加。リピーターも増え、今ではそのサロンは、顧客にとってなくてはならない存在になっているという。
これまで斉田さん自身が、体当たり営業で壁にぶつかった経験、組織の方針とのギャップや違和感といった実体験が今の仕事に生かされている。
そんな斉田さんが、これから事業をスタートしようとする人や事業をさらに発展させたい人に、ひとつだけアドバイスするとすれば、「人と会ってビジネスのチャンスをたくさん見つけること」だという。
ウエブサイトやチラシ作りは次の段階でもいい。色々な人と話して初めて、今、市場で何が求められているのかが見えてくる。その人(会社)ならではの魅力が、その人のことばと、人となりを通して伝わる。
一方、自身も経営、会計、労務管理など組織運営に必要な分野について勉強して経験値を上げる必要性も感じているという。
プロのコンサルティングを受け、課題と向き合いながら日々ブラッシュアップに努める。ある程度の数字を達成したら、法人化も視野に入れる。
「より良いコンサルティングができるよう、私も、さらに成長していきます」
これからもっと社長や社員が幸せになるお手伝いをしていきたい。
好奇心いっぱいに、謙虚に、常に学ぶ姿勢を怠らず、コンサルタントである自分に何ができるかを常に思考し、実践していく。
●なりわいを作る/シフトチェンジする人へ
新たなステージを模索中の方へのアドバイスを伺った。
「自分の得意と苦手、好きなことを明確にしてみることが大切です。
一つでも得意なことがあれば、それを伸ばしていけます。
例えば、ネット投資がもうかるからといって誰もができるわけではありません。
常に気を張りパソコンの前に1日中座る負担より、勝ったときの楽しさのほうが勝る人が成功するんです。
意にそぐわない職場に配属されたとしても、得意なことに磨きをかけ続けていれば、スキルは充実し、飛び出すチャンスが巡ってきたときに飛び出せます」
斉田さんのこれまでの仕事経験やさまざまな職業人との出会いから得た実感であり、すべての経営者、新たなチャレンジをする人たちへのエールだ。

イチからはじめるマーケティング
https://start-marketing.com/
斉田さんのお仕事4カ条
●人との出会いと対話からビジネスチャンスをつかむ ●学びつづける ●クライアントの「幸せ」のためのコンサルを行う ●視野をさらに開き好奇心を持つ |